JIRAIZUKAN

PRODUCTION SIDE

制作サイドが踏む地雷

チーム内の認識ズレによる地雷:Trigger.01

「これってすぐできますよね?」の魔法発動

「ちょっとした修正なんですけど」「ボタンひとつ増やすだけなので」「すぐできると思うんですが…」

その一言が発せられた瞬間、空気が変わる。
“今すぐ対応して当然”というプレッシャーと、“たぶん簡単でしょ?”という期待が、制作者の脳内にじわじわと迫ってくる。

Web制作の現場では、「すぐできますよね?」という魔法のような言葉が、悪気なく日常的に使われています。でもその裏には、作業の複雑さや確認フロー、他作業との兼ね合いなど、さまざまな“見えない工程”が存在しています。

表面的には「ちょっと手を動かすだけ」に見えることでも、実際には何倍もの工程や調整が必要になるケースは少なくありません。なのに、“サラッとお願い”されることで、制作者の時間も労力も、じわじわと削られていくのです。

今回は、制作の現場でよく起きる「すぐできそう」な依頼の落とし穴をいくつか紹介しながら、その背景にある認識ギャップと、どう防ぐかのヒントを探っていきます。

ケーススタディ

ケース1:「ボタンひとつ増やすだけ」→実は全体のデザイン見直しに

「このページにボタンをひとつ追加したいんですが、すぐできますよね?」
この一言で始まった修正は、UIバランスの崩れからPC版・スマホ版両方のデザイン調整に発展。
結果、レイアウト全体の見直し&表示テストで半日消える羽目に。

ケース2:「文字をちょっと変えるだけです」→全ページに反映の必要あり

共通パーツの文言変更は、一見シンプルな作業。でも、それが全ページに及ぶとなると話は別。
すべての該当ページを開き、修正し、確認し、アップロードする…というルーチンに意外と時間がかかる。

ケース3:「色を変えてほしいだけなんですけど」→社内調整で2週間

制作側としては変更自体は5分。でも「どの色に?」「本当にそれでOK?」と、クライアント社内での確認・承認に予想以上の時間が…。
“すぐ終わるはず”が、結果的にスケジュール全体に影響する。

解説

なぜ「これってすぐできますよね?」という言葉が、制作側にとって“魔法”に感じられてしまうのか。
それは、“作業の中身が見えていないこと”への無自覚さと、“軽さ”の押し付けがあるからです。

Web制作において、「ちょっとした作業」の定義は人によってまったく異なります。
依頼者にとっては“数分の手間”に見えるものが、制作者にとっては“全体構造の再確認・再調整”を必要とする作業であることもあります。

さらに厄介なのは、そうした“軽く見られがちなタスク”が、断続的に繰り返されることで、本来集中すべきメインの業務時間が細かく分断され、生産性が著しく低下してしまうこと。

制作チームにとって、「一つひとつに向き合って丁寧に仕上げる」ことが価値なのに、“即対応”が前提になることで、仕事の質も気持ちもすり減っていくのです。

解決策

“簡単そう”な依頼でも、工数と影響範囲を丁寧に説明する

「見た目は簡単でも、実際は複数箇所に影響が出るため時間がかかります」と根拠を添えて伝える。

「対応できますが、○時間程度かかります」と明言する

“ついで感覚”の依頼に対しても、具体的なスケジュールと手間を可視化することで、認識のズレを防ぐ。

都度対応ではなく、“まとめ依頼”を促す文化を作る

細かい依頼はある程度まとめて対応する旨をあらかじめ共有。
制作側の時間を守るためのルールとして習慣化する。

即答を避けて、“一度持ち帰る”習慣を持つ

その場で「すぐやります」と言ってしまうと、その後の依頼も全て“即対応前提”に。
「確認後お伝えします」とワンクッション置くのが大切。

まとめ

「すぐできますよね?」という一言は、悪気があるわけではありません。
でも、そこに潜む“手間や時間の軽視”が、制作現場に少しずつ負担を積み重ねていくのも事実です。

制作には、それぞれに準備があり、段取りがあり、確認があり、修正があります。
一つの“ちょっと”が、他の“ちゃんと”を犠牲にしてしまうこともあるのです。

  • ・ 「見た目のシンプルさ」と「実際の作業量」は必ずしも一致しない
  • ・ 制作の工数と構造を“見える化”して、認識を揃えることが大切
  • ・ “魔法のようにできてしまう”と思われないための言語化と姿勢を忘れない

私たちは、瞬間的に何でもこなせる魔法使いではありません。
でも、“ちゃんと届けたいことに、ちゃんと時間をかける”プロであり続けたいのです。

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