PRODUCTION SIDE
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「この画像、ちょっと動かしたいだけなんだけど」
「スーッて出てくる感じでいいよ」
言っている側は“ほんの一手間”のつもり。でもその一言、制作者には静かにダメージ。
「ちょっと動かす」だけでも、演出の方向性のすり合わせ、実装方法の選定、デバイス対応、ブラウザ差異、ファイル最適化など、複数の確認と調整が発生します。
しかも、それらの説明を求められることはほとんどなく、「簡単でしょ?パパッとお願い」と軽く流されるのが常。結果、スケジュールはズレ、工数は膨れ、地味な地獄がじわじわ続くことに。
今回は、“ちょっとしたアニメーション”がなぜ軽く扱われがちなのか、その誤解とリスク、そして現場でできる対処法について整理します。
「フワッと」の解釈は人それぞれ。CSSかJSか、ループさせるのか一度きりか、出る位置やタイミングは?
“たった1秒”のアニメーションでも、ディレクション・検証含めれば数時間コースになることも。
思いつきで加えられるアニメーション。
でも実装側は、他の要素との干渉、レスポンシブ時の挙動、パフォーマンスへの影響まで考慮が必要。
PCとスマホで同じ動きを再現するには、コードの切り分けや調整が不可欠。
一見シンプルな「動き」が、マルチデバイス対応で2〜3倍の工数に膨れ上がることも珍しくない。
「ちょっと動かすだけ」と言われると、それがごく簡単な“装飾的演出”と捉えられがちですが、現場ではむしろ動きこそが設計と実装の鬼門です。
「伝わりやすくて軽くて、どの環境でもスムーズに動く」そんな理想のアニメーションを実現するためには、以下のような観点がすべて絡んできます。
さらに、制作サイドにとっての問題は、こうした“追加アニメーション”が「無償で当然」という空気で依頼されがちなこと。
実際には、担当ディレクターや営業が「とりあえず動かしといて」と軽く通してしまい、そのしわ寄せがすべて現場に押し寄せるパターンも多く見られます。
“動き”は魔法ではなく、手を動かす人間の時間と労力によって生まれるもの。この感覚をクライアントと共有することが、品質と信頼の維持には欠かせません。”やってる感”の演出のしわ寄せが、いつも現場に降ってくる構造です。
動きの有無・種類・範囲を最初から明確化。追加があれば「追加工数」として扱う姿勢を徹底。
「スーッと」「フワッと」といった曖昧ワードには、参考動画やモーション例を交えて意図を擦り合わせる。
「PC・スマホでの表現差がある」ことを事前に説明。対応が必要なら別工数として扱う。
見えにくい作業もすべて“作業時間”であり、“制作費”であると契約・見積もりで言語化しておく。
「ちょっと動かしてほしい」この一言の裏には、制作者側の高度な判断と技術が詰まっています。
ユーザー体験を豊かにするアニメーションは、たしかに魅力的。
しかしその演出には、緻密な設計と地道な実装作業、そして動作検証や調整などの膨大な裏方仕事が伴います。
ところが現場では、営業・ディレクター・クライアント担当者が、“その場のノリ”で「ちょっとやっといて」と口にすることも少なくありません。それが積み重なると、現場は疲弊し、品質は落ち、結果的に“誰も得しない”状況に。
だからこそ、
このように、“動き”に対してこそ真摯に向き合う姿勢が、長期的な信頼とクオリティを生む鍵になります。
「ちょっと動かすだけでしょ?」に対して、「はい、でもその“ちょっと”に、プロの技術が詰まってるんです」と胸を張って言える文化をつくっていきましょう。