PRODUCTION SIDE
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「ちょっとした修正なんですけど」「ボタンひとつ増やすだけなので」「すぐできると思うんですが…」
その一言が発せられた瞬間、空気が変わる。
“今すぐ対応して当然”というプレッシャーと、“たぶん簡単でしょ?”という期待が、制作者の脳内にじわじわと迫ってくる。
Web制作の現場では、「すぐできますよね?」という魔法のような言葉が、悪気なく日常的に使われています。でもその裏には、作業の複雑さや確認フロー、他作業との兼ね合いなど、さまざまな“見えない工程”が存在しています。
表面的には「ちょっと手を動かすだけ」に見えることでも、実際には何倍もの工程や調整が必要になるケースは少なくありません。なのに、“サラッとお願い”されることで、制作者の時間も労力も、じわじわと削られていくのです。
今回は、制作の現場でよく起きる「すぐできそう」な依頼の落とし穴をいくつか紹介しながら、その背景にある認識ギャップと、どう防ぐかのヒントを探っていきます。
「このページにボタンをひとつ追加したいんですが、すぐできますよね?」
この一言で始まった修正は、UIバランスの崩れからPC版・スマホ版両方のデザイン調整に発展。
結果、レイアウト全体の見直し&表示テストで半日消える羽目に。
共通パーツの文言変更は、一見シンプルな作業。でも、それが全ページに及ぶとなると話は別。
すべての該当ページを開き、修正し、確認し、アップロードする…というルーチンに意外と時間がかかる。
制作側としては変更自体は5分。でも「どの色に?」「本当にそれでOK?」と、クライアント社内での確認・承認に予想以上の時間が…。
“すぐ終わるはず”が、結果的にスケジュール全体に影響する。
なぜ「これってすぐできますよね?」という言葉が、制作側にとって“魔法”に感じられてしまうのか。
それは、“作業の中身が見えていないこと”への無自覚さと、“軽さ”の押し付けがあるからです。
Web制作において、「ちょっとした作業」の定義は人によってまったく異なります。
依頼者にとっては“数分の手間”に見えるものが、制作者にとっては“全体構造の再確認・再調整”を必要とする作業であることもあります。
さらに厄介なのは、そうした“軽く見られがちなタスク”が、断続的に繰り返されることで、本来集中すべきメインの業務時間が細かく分断され、生産性が著しく低下してしまうこと。
制作チームにとって、「一つひとつに向き合って丁寧に仕上げる」ことが価値なのに、“即対応”が前提になることで、仕事の質も気持ちもすり減っていくのです。
「見た目は簡単でも、実際は複数箇所に影響が出るため時間がかかります」と根拠を添えて伝える。
“ついで感覚”の依頼に対しても、具体的なスケジュールと手間を可視化することで、認識のズレを防ぐ。
細かい依頼はある程度まとめて対応する旨をあらかじめ共有。
制作側の時間を守るためのルールとして習慣化する。
その場で「すぐやります」と言ってしまうと、その後の依頼も全て“即対応前提”に。
「確認後お伝えします」とワンクッション置くのが大切。
「すぐできますよね?」という一言は、悪気があるわけではありません。
でも、そこに潜む“手間や時間の軽視”が、制作現場に少しずつ負担を積み重ねていくのも事実です。
制作には、それぞれに準備があり、段取りがあり、確認があり、修正があります。
一つの“ちょっと”が、他の“ちゃんと”を犠牲にしてしまうこともあるのです。
私たちは、瞬間的に何でもこなせる魔法使いではありません。
でも、“ちゃんと届けたいことに、ちゃんと時間をかける”プロであり続けたいのです。