PRODUCTION SIDE
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「原稿まだなんですけど、とりあえずダミーで進めてもらえますか?
制作現場ではよくあるお願い。でも、その“とりあえず”が後に大きな混乱を生む火種になることも。
ダミーで作った構成に対して、あとから実際の原稿を流し込む。
一見、柔軟でスピーディな進行に見えるかもしれませんが、文字量・表現・写真の方向性がダミーと異なるだけで、レイアウト全体の作り直しが発生する可能性は大。
「どうせ差し替えるだけでしょ?」という軽い判断が、結果として時間もコストも膨らむ原因になるのです。
今回は、この“仮素材進行”が招く地獄と、その対処法を掘り下げます。
構成・デザインを仮のコピーで進行。
ところが後日届いた原稿は、ボリュームも語調も想定外。
バランスが崩れ、レイアウトをほぼ全面的に見直す羽目に。
“仮”で入れた素材に合わせてトーンやレイアウトを整えていたら、本番写真がまったく違う方向性で、世界観がチグハグに。
「写真に合わせてデザインを変えて」と言われ、再構築に…。
“あとで戻す”のは簡単じゃない。
仮ベースで進んだ作業の“巻き戻し”には、手間もストレスも2倍。結果的に、最初から確定素材で進めた方が早かった…という落ち。
「とりあえずでいいから進めて」――この言葉の裏には、制作工程に対する誤解だけでなく、“進行しているフリ”をしたい関係者の都合が見え隠れします。
たとえば、営業やディレクター、あるいはクライアントの担当者が、「ひとまず進めています」と上司やチームに報告したいがために、まだ整っていない情報や素材を置き去りにしたまま、制作に“仮進行”を依頼することがあります。これは一見、前向きな姿勢のように見えますが、実際には段取り不足のツケを制作現場に押し付けている構図。
デザインは単なる“絵”ではなく、文章の構成、文字量、写真の方向性や空気感すべてを加味して設計されるもの。仮素材で無理に進めると、そのズレがのちに大きな手戻りや修正として跳ね返ってくるのです。
しかも一度組んだレイアウトや構成を“差し替え”る作業は、単なる「置き換え」ではなく、再構築に近い負荷を伴うことも少なくありません。そのうえ、こうした“仮進行”はあくまで関係者の「安心材料」であって、プロジェクトの実質的な進行にはつながらないことが多いのも事実。
結果として、制作側だけが時間・労力・精神的ストレスを背負う形になり、プロジェクト全体の効率を落とすことにもつながるのです。
初期の段階で、「あとで差し替え=追加工数の可能性あり」と伝えておく。
仮でもいいが、できるだけ“近い内容”にしてもらうだけで、リスクはぐっと減る。
差し替えが大きな手間になる場合の例を挙げ、現実を共有。
全体効率を考えれば、“待つこと”が最善の選択になる場合もある。
「とりあえずダミーで入れといて」という一言は、一見すると前向きな進行のようで、実は“未決事項の先送り”に過ぎないケースがほとんどです。
デザインは、情報が確定して初めて“正しく組み立てられるもの”。曖昧なまま見た目だけ進めても、後からの差し替えが重なれば重なるほど、整合性は崩れ、修正対応の負荷もどんどん膨らんでいきます。
さらに問題なのは、「とりあえず進める」ことで、あたかもプロジェクトが順調に進行しているかのような“錯覚”を、関係者が共有してしまう点です。
この“仕事してる感”のパフォーマンスが、結果として本質的な遅延や手戻り、制作サイドの疲弊を引き起こしてしまう。
だからこそ、最初から「確定情報が揃わない限り、安易に着手しない」という線引きが重要。そして、仮データでの進行には“別のコストとリスク”が発生することを、クライアント含めチーム全体で共有する姿勢が求められます。
「仮で進める」は、前進ではなくリスクの蓄積。
本当にプロジェクトを円滑に進めたいなら、まず“情報の確定”を最優先に。
それが、制作の質と信頼を守る、いちばんの近道です。